学 校 紹 介校 長 室

2022.11.17 「いのちの集会」校長メッセージ

2022.11.17 「いのちの集会」校長メッセージ

2022 いのちの集会 校長メッセージ

  今日11月17日は、富雄北小学校にとって「悲しい」けれども決して「忘れてはならない」「とても大切な日」です。大切な子どもが突然この世からいなくなってしまった「命日」なのです。

  18年前の今日は、富雄北小学校1年生の一人の女の子の命が失われた日なのです。お名前は「有山楓さん」と言います。

  楓さんは、同じ学年だけでなく、他の学年のお姉さんにも友だちがたくさんいる1年生でした。意地悪をしてくるお友だちにも、自分からあいさつをしたり、お話をしに行ったりする、とても優しくてとても勇気のある女の子でした。ダンスの得意な楓さんの誕生日は11月11日です。7歳の誕生日プレゼントは24インチの自転車でした。大好きなお父さんとお母さんと妹さんたちの笑顔に囲まれてお祝いをし、山盛りの唐揚げとケーキをいっぱい食べました。そして事件前の日は、すき焼きで大好きなお肉と、デザートにはぜんざいも食べました。お仕事から帰ってきたお父さんが「遅いから早く寝なさい。」と声をかけると、「はーい、おやすみなさい。」と妹さんと2階へ上がって行ったそうです。この言葉がお父さんと楓さんの最後のやりとりになりました。

 

  楓さんは次の日、学校からの帰り道に悲しい事件に巻き込まれてしまいました。角を曲がったらお家に着くというところで、知らない人の車に乗せられてしまったのです。それからは、元気で明るい楓さんの姿を見ることは誰にもできなくなりました。

その日の夜遅く、お家から遠く離れた知らない所で楓さんは見つかりました。そして楓さんの大好きなお家の人の所に帰ってきました。ただ、妹さんと手をつなぐことも、お話しすることも、笑うこともできなくなりました。「ただいま」の声もありません。でも、お父さんとお母さんが「楓に会えました。楓が戻ってきてくれました。」と本当にうれしそうに優しくおっしゃったときのことをわたしは、今も覚えています。


  わたしのすぐそばに、教室でみなさんも使っている学習机があります。これは、有山楓さんの机です。1年生の11月17日まで1年教室で使っていた机です。今まで楓さんのお家の方が大切にされていたのを特別にお借りしてきました。そして、楓さんの机の上に置かれている鐘もお父さんからお借りしてきました。この鐘は長い間、海の底で眠っていた鐘です。これが偶然、漁師さんの網にかかり、奇跡的に引き上げられたのです。広い広い海の中からこの小さな鐘が引き上げられるってすごいことなのです。事件のとき校長先生だった楳田先生はこの鐘が特別なものに感じ、次第に楓さんの姿と重なるようになったそうです。漁師さんから譲り受けた鐘を楓さんのお家の方に贈ろうと考えられました。そのためには、鐘を鳴らす玉や、台、支える柱が必要です。楳田先生はいろいろな人に相談されました。すると「有山楓ちゃんのためなら」「楓さんの家族を勇気づけれるのなら」という人たちが現れ、どんどん温かい人の輪が広がっていきました。

  そして最近、もう一つうれしいことがありました。校長室の前が明るくなりましたね。気付いた人はいますか? 立派な家具が取り付けられ、楓さんの絵や詩、遠足の時の写真が飾られていますね。みなさんの作品も展示しています。「楓ちゃんは、どの子かな?」と探している人もたくさんいますね。このようにいつでも皆さんが楓さんと一緒に過ごせる場所を作りました。大きなテレビモニターは、皆さんが学校でがんばっている姿やみんなが伝えたいことを発信していくところにしていってほしいです。すでに計画委員会の人たちが作った第1号作品が流れています。このコーナーも「楓さんといっしょに過ごせる場所を作ろう」という思いで先生方みんなと地域の方々が相談して完成したのです。楓さんのお父さんもとても喜んでくださっています。きっと、大好きな自転車に乗って楓さんが、多くの人と人を結び付けてくれているのに違いありません。


 今日、体育館には、楓さんやあなたたちのことを大切に思ってくださる方々や楓さんのご家族にもおいでいただいているのですよ。皆様、本当にありがとうございます。

 このように皆さんは、皆さんのことを大切に思う多くの大人に守られています。その中でも一番身近にいるのは誰でしょう? そう、家族ですね。家族にとって、あなたたち子どもは宝物です。読書が嫌いでも、運動が苦手でも、忘れ物が多くても、計算が遅くても、漢字が嫌いでも、いたずらをしても、生意気なことを言っても、お家の方にとって、あなたたちは間違いなく宝物です。このことは忘れないでください。そんな大切なあなた方を失うことになったら、どれほどお家の方々が、悲しい思いをするか、どれほど涙を流すのか、どれほど時間を巻き戻したいと思うか、想像してみてください。

 楓さんのお父さんとお母さんから、18年前に富雄北小学校の皆さんにいただいたメッージを紹介します。


[富雄北小学校児童の皆さんへ

  私たちは、ある日突然に、最愛の娘の命、夢、希望を奪われてしまいました。本当に辛く悲しく、永遠に忘れることのできない出来事です。

  今日は、私たちから児童の皆さんに伝えておきたいことがあります。それは、皆さんのお父さん、お母さんにとって、皆さんは、自分の命より大切な宝物です。あなた方に替わるものなどない、かけがえのない大切な大切な宝物であるということを知ってください。

  皆さんには、これから夢と希望に満ち溢れた未来が待っています。その未来に向かって一生懸命生きてもらいたいと思います。そうした皆さんの姿を見ることで、私たち大人は皆さんを守っていかなければならないという気持ちや勇気を持つことができるのです。

  私たちの娘は、この学校で沢山のお友だちとの思い出をいただきました。その思い出をこれからも皆さんに受け継いでもらいたいと思います。その想いがあれば私たちの心の中にも、皆さんの心の中にも、娘がずっと生き続けることができるものと信じています。

  お父さん、お母さんを悲しませないためにも、皆さんが元気で楽しい生活を送って、そして、未来に向かって大いに羽ばたいてください。心よりお祈りしています。]


  ご両親の想いは皆さんの心に届きましたか?


  それでは、これから「楓さん」と心の中でお話をしてください。代表の人お願いします。鐘は「楓さん」の年齢と同じく、7回鳴らします。

  私たちの想いはきっと楓さんに届いたと思います。

  あなた方の人生はまだ始まったばかりです。これから、多くの人と出会い、美しい人や物に触れてください。世界は広く、空はどこまでも果てしなく広がっています。この広い世界に同じ時間を生きている人との出会いは偶然ではなく、必然です。ですから、出会った人と時間を大切にし,自分らしく生きてください。


  楓さん。私たちは、しっかり前を向いて笑顔で生きていきます。


2022年11月17日

校長 後藤 誠司

登録日: 2022年11月18日 /  更新日: 2022年11月18日